研究概要

近年出現した新材料,共有結合性有機骨格(COF)で実現する革新的なエネルギー技術創出

共有結合性有機骨格(COF)は,1桁ナノメートル台のジャングル構造を構築する,極めて高いデザイン自由度をもつ新世代の有機材料であり,未来の固体として非常に大きな可能性を秘めています.実際,COFで提案されていない新規応用は無いと言っても過言ではありません.COFは,分子の単位を共有結合によって規則的かつ自発的に組み上げてゆくもので,フォワード・デザインができる新しい物質のジャンルで,固体材料の新しい方法論となっています.当研究室では,現在,COFを用いた革新的なエネルギー技術の創出を開拓していっています.本研究室では脱炭素社会の実現に貢献できる次のエネルギー技術の有望材料と見なしており,日々研究を進めているところです.


フォトン・アップコンバージョン(光エネルギー利用効率を向上させる光の波長変換技術)

光は光子(フォトン)という粒からなっています.光は様々なエネルギー形態の中でも特に重要です.これは,光には我々の生活に有益となる多くのエネルギー変換と物質変換の機能があるためです.例えば,光のエネルギーは,太陽電池によって電気エネルギーに変換され,光合成材料や光触媒によって水素や炭化水素燃料などの貯蔵可能な形態に変換されます.

このように多機能な光ですが,その利用には,きわめて原則的,根本的な制限が存在しています.それは,ある「しきい値」より高いエネルギーを持った光子しか変換に利用できないという点です.例えば,水の分解による水素生成を有意に行えるのは青色より短波長側の光スペクトル部分のみ,植物の光合成を起こせるのは赤色より短波長側の光スペクトル部分のみ,アモルファスシリコン太陽電池で発電が可能なのは波長約720 nm(赤色)より短波長側の光のみ,となります.

フォトン・アップコンバージョン(UC)は,このようなエネルギー損失を回避する光の波長変換技術です.現在,当研究室が取り組む「有機分子間の励起エネルギー移動を用いるUC法(TTA-UC法)」によって,太陽光程度の低強度光に対しても高い効率でUCが可能となっています.これは数年前には考えられなかったことであり,未来の光エネルギー利用技術として幅広いインパクトをもつベース・テクノロジーとして近年注目を集めています.

私たちは,このTTA-UC法を,世界で研究者が5人程度だった2009年から研究を始めており,これまで多くの成果を得てきています.現在,この分野は多くの人が参入して急速な発展を見せており,本テーマは応用と学術の両面で未来に続くフロンティアを有しています.このテーマは,様々な業界の民間企業との共同研究も多いことも特徴です.

Photon Upconversion Device, Spectrum

流れとイオン輸送を最適にデザインして実現するレドックス・フロー熱電発電

多くの場面で「捨てたい熱」が発生しています.エンジンやタービンなどの熱機関では,熱効率を上げるためと,材料を熱ダメージから守るために冷却が必要であり,データセンターでは膨大なCPU群からの発生熱を速やかに捨てる必要があります.一方,熱もエネルギーの一形態ですから,迅速に捨てる必要は認めつつ,これは「もったいない」と見ることもできます.この「もったいない」の根底には,「高温熱源から冷却流体への熱移動は,その熱エネルギーの電気エネルギーへの可換分(エクセルギーといいます)を損失させる行為であり,冷却が積極的なほどエクセルギーは高速に散逸される」という事実があります.冷却は世の中で幅広く行われていますが,このようなエクセルギー損失への対処は従来行われてきませんでした.

この「もったいない」の解決の一般論として,熱電変換があります.従来,熱電変換の研究のほぼ全ては,固体材料で行われてきました.固体の熱電素子が有意に働くためには,素子の両面間に大きな温度差がついている必要があります.つまり,その後段により大きな熱抵抗(例えば固体・空気界面)があって,素子の両面間に大きな温度差がつかない場合には,有意に働きません.ところが,「熱電素子の両面間に大きな温度差がついている」ということは,「排熱面に設置された熱電素子が,排熱源と環境との間で支配的な熱抵抗になっている」ということです.これは,熱電素子の熱流中への挿入が「捨てたい熱」を迅速に捨てる妨げになることを意味し,「子」である熱電素子が「親」であるエンジンやタービンの効率を下げ,冷やすべき機器の温度を上げる矛盾を生じるため,システムとしての正当化が難しくなります(資料:この点の詳しい解説).

しかし,もし液体で行う熱電変換が存在し,それを強制対流冷却に組み込むことができれば,このジレンマの解決が可能と考えられます.液体は熱輸送媒体の役割が担えるため,その適用(=冷却で散逸しているエクセルギーを電力として一部回収すること)と要求満足(=除きたい熱を迅速に除き,対象を冷却すること)とが両立可能になるためです.このとき,排熱面と流動液体の界面に形成される温度境界層において大きな温度差がつくことは,短距離間に大きな温度差をつくこと(熱電発電に有利),および,排熱面における熱伝達率が向上すること(冷却に有利),の二重の利点につながります.一方,従来,冷却と無関係な文脈において,「熱電気化学発電」という液体による熱電発電が,積極冷却の義務がない「廃熱」の再利用を目的として,閉じた静的なセルについて研究されていました.

本研究室では最近,世界で初めて,熱電気化学発電を強制対流冷却に統合する技術である「レドックス・フロー熱電発電」を創出しています.(これは従来なかった新技術なので,名前から当研究室で作っています.)すなわち「冷やしながら発電する」というコンセプトです.最近,私達はこのコンセプトの実証と基礎特性の解明を行いました(2019年11月のプレスリリース).本創出技術は,強制対流冷却に発電機能を組み込むことにより,現状未対処な上述の「強制対流冷却に伴って生じるエクセルギー損失」への解決を与えうる,社会におけるIoT圏の拡大,宇宙への人類の居住圏拡大にも組み込んでゆける,発想の根本的な飛躍を伴う,新しいエネルギー技術となっています.

このような新コンセプトの発電には極めて広大なフロンティアが存在し,このテーマは電気化学,熱流体,材料化学,機械設計を横断する多彩な学問領域を包含するものとなっています.本技術は最近ようやく注目され始めた黎明期にあり,広いフロンティアをもつ挑戦的なテーマとなっています.